第1章 貸し剝がし

工業振興協議会

雨のしとしと降る昼下がりの2時から、工業振興協議会は始まった。

宮崎県の商工労働部が主催するこの協議会は今年の5月に発足した。

この協議会は、産学官が一堂に会し、今後の工業の振興について、大いに議論してもらおうというものであった。その意見を、工業振興政策に生かしていくことを目的としていた。

今回で3回目を数える。

メンバーは、地元の国立大学の教授、高校で産業教育に携わってきた先生、宮崎ひまわり銀行の頭取、戦前から宮崎に工場を置いている上場企業の専務取締役工場長、そして、県を代表する工業界の10社の代表たちで構成されていた。

1回目の協議会は、今後の協議会の進め方の説明、そして県の工業の現状についての説明で終わった。

2回目は、県の工業関連施策について説明がなされた。農業、林業の盛んな、というより一次産業しかない、といってよいほどの宮崎では、自ずと県の予算も一次産業に偏りがちなのは仕方がないと県民は考えているふしがある。

しかし、昨年の農業出荷高は約3千億円だが、工業出荷高は1兆2千億円と、工業は農業の約4倍の出荷高である。そのことを県民は知ってか知らずか、それが話題になることはなかった。

工業に従事する者が少ないからなのだろうか。松葉はかねてから疑問に思っていた。このような協議会で問題提議できるのではないか、と松葉は密かに期待した。

しかし一方では、数字の上からだけで工業の優位性を主張することは、県担当者に負担を掛けることになるのではないのか、そんな心配が頭を過(よ)ぎった。