第1章 貸し剝がし

返済強要

翌日、松葉は専務の仙田を呼んで、支店長がこの件は任せてくれと言ったことを告げると、仙田は

「支店長が、そう言ってくれましたか。今度の支店長は頼りになりそうですね」

「それがね、そうでもなさそうです。今回の件は間違いなく大丈夫でしょうが、今後はそうはいかないかもしれません。今回も本部から、支店長の頭越しに支店の担当者に全得意先の貸付けの見直しの指示があった、と言っていました」

「そうですか、しかし支店の担当者がそんなフライングをするでしょうか」

「そんなことは、私もしないと思います。どうしてか、気を付けておきましょう。そういえば、この前銀行で藤田という人を紹介されましたが、差し出された名刺が、本部になっていました。前任地の名刺を出す人などいませんよね。変だなと思って、支店長に聞いてみましたら、本部に籍のある支店の債権管理の責任者だ、と支店長が言っていました」

「貸し剝しの専門屋かもしれませんね」

「そうかもしれないなぁ……。外村さんから、その辺の情報はあっても良さそうですが、何か聞いていますか」

「いいえ、何も聞いていません。外村さんは今回の5千万円返せ、のことも何も知らなかったのでしょうか」

「そんなことはないでしょう。一応、外村さんに私から聞いてみましょう。本来なら、彼から金融事情について情報が入るべきだと思いますが、全然ないですよね。それも彼の大きな役割だと思うのですが……」

「社長、彼に多くを期待しない方がよろしいかと思います。今回も、いの一番に社長のところに来て、銀行と渡り合うぐらいでないといけないと思いますが、全く我関せず、ですからね」

仙田は、外村への不満を口にした。