第1章 貸し剝がし
返済強要
「社長さん、私も楽しみにしていました。先日の5千万のご報告もあります。詳しくは、お会いしてからお伝えします」
割烹「たつみ」は、3代続いている老舗だ。2代目が今日の基礎を築いたといわれている。2代目は、職人気質の多い調理人の中にあって、異質の存在といってよかった。
常連客の部屋はもとより、初めてのお客のところへも、必ず時間が許す限り挨拶に現れ、料理がお好みであったかどうか、を聞いていた。非常に謙虚な姿勢がお客に好印象を与えていた。お客の意見を、ひたすら聞くことに徹していた。
2代目の真摯な態度は、お客の職業、地位、年齢などに左右されることはなかった。意見の中にお客の好みを見てとる2代目は、自分の味は大事にしつつも、その客が次に来たとき、密かに好みの一品を出すような心遣いをしていた。その客が気づくかそうでないかは、別に気に留めなかった。
松葉も2代目のその気質に教えられることが多かった。料理もさることながら、2代目に会えることがここに来る楽しみの一つでもあった。
自分の現状に決して満足することなく、そして決してお客といえども媚びることもなく、自分に与えられた仕事を天職として、常に極めようとする姿勢に、松葉も2代目として学ぶことが多かった。
松葉は少し早めに行って、下座に座って支店長を待つことにした。