支店長の言葉の端々に人柄が滲み出ていて、松葉は同情にも似た複雑な気持ちが湧いてきた。
「そんなことはないですよ。中小企業の社長とは孤独なものです。もちろん、社長閥で固まらざるを得ないのですが、結構、酒の肴になっているのではないのですか。まぁ、鬱憤晴らしも必要ですからね」
「ところで、5千万円の件ですけど、本部が全部の貸付けの見直しを一律に各支店の融資担当者に指示したそうです。縦割りの弊害がここにも出てきました。
それぞれの支店には、お取引が始まってから今日までいろいろとお世話になったことがあったと思うのですよ。しかしそんなものは、全く本部の連中の念頭にありません。
預金のお願いもしたことがない者が、指揮するようになって、この傾向はますます強くなってきたような気がします。ここは、私に任せて下さい。何とか本部を説得します」
「支店長さん、第一さんも巷で言われている貸し剝がしが始まったのではないでしょうね。もし、ご方針としてそうでしたら、早めにおっしゃって下さい」
松葉は、皮肉を込めて「ご方針」と言ってみた。
「そ、そんなことはありません。今まで同様の取引をお願いします」
支店長は、滅相もない、と言わんばかりの口調で言った。
【前回の記事を読む】突然の5千万円返済要求!! それは銀行側から「何としても借りてくれ」と頼みこまれた借入だった
次回更新は8月14日(水)、8時の予定です。