「松葉社長さん、お忙しいのに今日はありがとうございます」
少々遅れて部屋に入って来た支店長の呼吸が乱れていた。
「いやいや、支店長さんこそお忙しいのにありがとうございます」
「社長さんは、ここをよくお使いですか」
「そうですね。よく使わせてもらっていますね。支店長さんとは初めてですが、支店長さんも、よく見えますか」
「いや、こんな高級なところに出入りしていると、何を言われるか分かりませんよ」
「と言うと」
「銀行というところは、裏表の激しいところです。私も嫌な思いを何度かしてきました。ねたみ、そねみですね。行内の生存競争の激しいところですから。足の引っ張り合いは日常茶飯事ですよ」
「本部に垂れ込んだりする人がいるのですか」
「いや、支店の者が直接そんなことを言うとは思われません。本店に行ったときなど、本店の同僚と一杯飲むときなんかに、酒の肴にでもしているのではないですか。
私たちも、支店長の悪口を若い頃は言っていました。それが本部の役職に聞こえているのです、誇張されて。また、派閥が絡んでくると、ここぞとばかり言うのがいるのですよ。嫌ですね。社長さんのところは、そんなところがないからいいですね」