第1章 貸し剝がし
工業振興協議会
3回目の協議会は、県の産業構造について、各委員の意見が述べられることになっていた。各委員の前には部厚い資料が配布されていた。
協議会の会長の開会の挨拶が終わり、県の担当者から資料の説明がなされた。
説明が終わるや否や、「会長! よろしいですか」と松葉は挙手して、発言の許可を求めた。
「私は、今までいろいろな協議会、審議会に出させてもらってきましたが、中には審議を待たずして、既に結論は出されているというケースもあったような気がします。会は単なるご当局の結論を追認する、というものであったようです。既に、ご当局に何らかの結論が準備されているとしたら、ここで披露して頂いた方が議論に無駄がないような気がします」
すると、司会を務めていた担当者の係長が、真剣な顔をして「何も決まっていません。委員の皆さんのご意見を今後政策そして施策に生かしていきたいと思っています」と即座に応えた。
松葉が「既に、結論は出されている」と言ったときに、商工労働部長、工業担当次長、工業振興課長の居並ぶ席の後ろに座っている担当職員同士が顔を見合わせて、ニヤッと笑ったのが松葉には気になったが、今回は県も本気で我々の意見を聞いてくれそうだ、と思い直した。
松葉の発言に、今回の協議会が単なる諮問に終わるのではないと分かったのか、委員の顔にも真剣さが漂ったような気がした。
この日の会は、いつになく多くの意見が出された。
次の協議会の日程が発表され、会は終わった。この協議会には、松葉工業の関東工場建設資金の協調融資に参加した宮崎ひまわり銀行の菊竹頭取も出席していた。