委員が会場を退出するのを見計らって、松葉は頭取に歩み寄って挨拶した。

「頭取さんいろいろご迷惑をお掛けしています」

「いや、松葉さん、久し振りですね。頑張って下さいよ。いろいろ報告は聞いています」

「何とかこの場を乗り切って行きたいと思っています」

「やはり、他行も松葉会長の出方を見ているのではないですか」

松葉は、会長の出方と言われて、心の底で少々不愉快だった。この件は松葉会長には関係ない!と叫びたかった。

努めて顔には出さないようにして聞いていたが、菊竹頭取は決定的なことを口にした。

「我々は、大勢に従っていかざるを得ません」

「大勢と言いますと」

「いや、我々はお付き合いも短いし、融資比率も低いですから」

言葉の端々に、早くこの場を去りたい気持ちが見て取れた。

「松葉さん、次がありますからこれで失礼します」

菊竹頭取の目は、言い終わる前に出口の方を見ていた。

「お忙しいところ、お引止めしまして失礼しました。またご相談にお伺いさせて頂きたいと思います」

松葉の言葉に何も応えず、菊竹頭取はその場を去って行った。

菊竹頭取は、松葉から事情を何ら聞こうとしなかった。ただ、自行の報告に基づいて話しただけなのが、松葉には寂しく、何かやり切れないものを感じた。

彼には、松葉工業に積極的に協力する意思のないことが分かった。

菊竹頭取とは、この協議会だけでなく、他の委員会等でも何度も顔を合わせていたし、いろいろなパーティでも懇談を共にしていた。ゴルフコンペでも、同じ組でプレーしたりしたことも幾度かあった。

顔を合わせると、菊竹頭取はいつも松葉に言っていた。