「松葉工業ぐらいですね、本県で独自の技術で中央に進出しているのは」
「松葉工業の中央での評価は相当なものだそうですね。聞きましたよ、東京支店の者に」
「議員会館の外壁も松葉工業の製品だそうですね。郷土で造られたものが、日本の代表的な建物に使われているとは、我々の誇りです」
「最近、霞ヶ関の合同庁舎ビルの仕事もされたそうですね」
「この前、上京しましてね、県の東京事務所に寄ってみました。新しくなった都道府県会館にも松葉工業の製品が使われているそうですね」
菊竹の言葉の端々に松葉工業について、菊竹の関心が高いことを松葉は感じ取っていた。
菊竹頭取も応援してくれるのではないか、という淡い期待を松葉はいつしか持つようになっていた。
しかし、それは松葉の単なる夢想でしかなかったことを、今思い知らされた。
菊竹は、今まで単なるリップサービスで松葉にそんなことを言っていたのだろうか。
そんな筈はない! そんなことがあるものか! 松葉は、すぐに心の中で打ち消した。
菊竹頭取はそんな人ではない!
菊竹を非難することはだけはしたくなかった。
松葉工業の、そして松葉自身の一番の理解者であると思っていただけに、その気持が瓦解していくのが怖かった。
松葉は、菊竹がバンカーとして、客観的な立場で評価してくれているものと思っていただけに、尚更だ。
松葉の自信と確信が大きく揺らぎ出した。
それは、松葉の今までの努力を全く否定するに等しいことのように思われたからだ。
【前回の記事を読む】農業、林業の盛んな宮崎県。常に政治の目は第一次産業に向けられ、その中での工業政策には限界を感じていて…
次回更新は8月17日(土)、8時の予定です。