五 爆発したわがまま、それでも関係は変わらなかったフィレンツェ・ピサ

そして次はこの旅の目玉の一つとなるU美術館に入る。そう、私は有名な「ヴィーナスの誕生」もこの目で見たのである。この美術館は窓から見える景色以外写真は撮ってはいけないとのことだったので、実家にあるアルバムにはU美術館の窓から撮影したヴェッキオ橋の写真が一枚だけ残っている。

実際の「ヴィーナスの誕生」は巨大だ。それが当時抱いた感想だった。振り返るとあまりにも幼稚な気もするが、言い換えればそれだけのインパクトがあり、絵から溢れ出る何とも言えない神々しさもあったということだ。

この時同じツアーのおじさんからこんな事を言われた。
「中学生でこんな絵画を見られるのは貴重だから、しっかり覚えておくんだよ」

私は半分聞き流していたが、この時U美術館に入れて本当に良かったと今では心から思っている。ヨーロッパ美術に関する知識は、恥ずかしながら今でもそこらの素人と変わりないかもしれない。

だが、ここで他にも有名ないくつかの絵画の説明を受け、当時の作品の数々はキリスト教に対する畏敬の念や神話や伝説の継承の役目を果たしたのだと知ると、私の古今東西の美術を見る目も良い意味で変化した。

そう言えば、聖堂や教会で見かけるステンドグラスは、元はと言えば装飾のためではなく読み書きのできない人のために、キリスト教を彼らにも伝承させるために作られた。U美術館に入れたことは、振り返れば後々私の趣味・嗜好が変化して行く転換点になったのかもしれない。