七 コモで気付いた思い、本当の恐怖を覚えたその後のミラノ

目の前の気さくそうな女性に声をかけてみた。

「ドゥオーモまではどうやって行けばいいですか?」

その女性は親切に道を教えてくれた。

そこを左に曲がって、数ブロック先を行けば…。どうやら最終集合場所まではそう離れていないらしい。

「ありがとうございました」と言って、私は足早に歩き出した。女性の言葉を反芻しながらとにかく歩いた。左に、そこは右、まっすぐ行って…。

大丈夫、思ったほど迷子にはなっていない。

そう自分に言い聞かせて約十分ほど、私は見覚えのある場所に辿り着いた。目の前にはドゥオーモもアーケードもちゃんと見える。

ああ、良かった…。

この時の安堵感はとても言葉では言い表せない。

迷子になったと気付いて集合場所を見つけるまでの十数分の、何と長かったことか。

日本大使館はローマにしかないから、最寄りの警察署に行くとしても英語もろくに話せなかったから相当苦労しただろう。

私は、本当に一人ぼっちになるところだった。

だがもう一人ではなくなる。

集合時間まではまだ二時間以上あったが、もうこの辺りからあまり動かない方が賢明だ。私はアーケードに入り直したりその近くのデパートに入ったりしながら時間を潰した。

夕方、見知った顔が次第に集まり出して、いよいよイタリアに別れを告げる時がやってきた。ローマからここまで運転してくださったドライバーのAさんとも、M空港でお別れだ。