夜二一時頃ミラノを発つフライトはかなり疲れるが、その時となっては、これから日本に帰ることができるという安心感と、何か壁を一つ越えたような感覚で一杯だった。
自分の知らなかった世界を知ることができた。
この短期間で、以前よりも様々な視点を持てるようになった。
そして、どれだけ私が自分勝手でまだ他の人たちに迷惑や心配をかけてしまったかということにも…。
この先もこんな形で人に迷惑をかけることは避けられないだろうが、今回一緒に旅をした心優しい方々のように、誰かに対して優しくすることは出来るはずだ。
帰りの機内では、寝る間を惜しんでずっとこの旅を振り返っていた。
日本に、そして故郷に着いたら、また色々と新しい生活を始めなければならない。
この旅は、ただの思い出作りでは終わらせてはならない。そう胸に誓い、私は再び祖国の、そして少しの間遠く離れていた地を踏んだ。
あとがき
私は高校生になってから、「大人」になるために一時期自分の感情に必死に蓋をしていた。
思春期の時のトラウマがあるからこそ、私は人より早く「大人」にならなければならないと焦ったのだろう。
だが世間で良しとされている価値観と自分の思いに折り合いがつけられず、結果として最も大事にしなければならない私の直感を無視してしまった。
そして、何年もの時間と親の金を浪費しただろうか。
就職活動の際も、華やかな世界に憧れず地に足をつけた努力をして、就職先も、本当は自分に合っていなくても手に職をつけられる場所でなければ。
そんな風に考えた時が、実に十年以上も続いてしまった。新卒で入社した会社では結局何の役にも立てずに退職して、私は休職中、自分の本当の思いを模索する日々が続いた。
そんな時思い出したのが、中学三年生のあの旅だった。
私は自分の気持ちを探る一つの手段として、自分が好きだった場所に行く、思い出すという作業をすることをしていたのだ。
この旅行記を書いている時も、あの場所に行った時どのようなことを思ったのかということを記憶の引き出しから探る作業の連続だった。
そしてようやく本当の思いが心の奥底から出てきた。
私、本当はもっと色んな場所に行きたいんだ。