六 美しきヴェネツィア、考えるべき環境問題

チャーターした水上バスでヴェネツィア本島に上陸した瞬間、私はその光景に息を呑んだ。

どこを撮っても絵になる街並み。車も、自転車さえも走っていない「日常」の風景。これまで見てきたイタリアの都市とは、何もかもが違っていた。

当時中学生だった私のヴェネツィアに関する知識はと言えば、某世界的アニメの劇場版の舞台のモデルがヴェネツィアだったという程度だろうか(私以上に知識や経験を積んでいる同級生ならもっと他の想像ができたであろうが)。

だが実際は想像以上だった。中心地のヴェネツィア広場やそこに隣接するドゥカーレ宮殿、サン・マルコ寺院は建設当時の威厳を残していたが、一歩その外に出ると、筆舌に尽くし難い美しい街並みが目の前に広がっているのだ。

この日のヴェネツィア観光はドゥカーレ宮殿から始まり、サン・マルコ寺院、ガラス工房見学、ゴンドラ乗船というスケジュールだった。

最初のドゥカーレ宮殿に入れた時は、特に「夢が叶った」と思った。

私は父親が持っていた世界遺産の冊子で見たヴェルサイユ宮殿の美しさに心奪われ、以降、宮殿に住む人たちがどのような生活を営んでいたのかを自分の目で確かめたくて仕方がなかったのだ。

ただし、当時その対象はあくまで西ヨーロッパに限られていた。家具や調度品に関してはそれこそ小学生になる以前から好きだったため、実際ヨーロッパでそれらを見られたらどれほど素晴らしい体験になるだろうか。

ドゥカーレ宮殿は生活感が一切なく政治の中枢を彷彿させる場所だったが、それでも当時の政治家はこんな場所に腰掛けて会議をして、祈り、囚人たちは想像以上に殺風景な場所に投獄されていたと想像すると、あたかもその時代にタイムトラベルしたような感覚になる。

日本の城や個人の邸宅でもそのような気分になることができたのは、イタリア旅行から何年も経った後だった。