サン・マルコ寺院の後は、今ツアーの中で恐らく最も待ちに待っていた昼食だ。
入店したレストランは裏道のような場所にあり、外には地元で採れた蟹や海老などの魚介類が陳列されていた。お目当てはイカスミパスタ。私自身食わず嫌いが激しく、真っ黒に染まったパスタを写真で見て最初は引いてしまった。それでもイカスミを食べたいと思ったのは何故なのか。
それは今でも謎のままだが、幸運なことにここで私の食わず嫌いはここで一つ克服された。
一口パスタを口に入れると、何とも言えない芳醇な香りが口中に広がった。ほんのり香る海の味と、バターのようなコク。当時の私はイカスミを苦手な内蔵ものの一種と警戒していたので、なおさら夢中になって食べた。
だが同時に、考えたことがある。
ヴェネツィアでは環境問題が最も深刻な都市の一つだ。中心地のヴェネツィア広場には過去の洪水の写真が何枚もあり、その深刻さを物語っている。
私の高校一年、二年時の担任は私の約一年後に新婚旅行でイタリアに行ったのだが、見事にヴェネツィアの洪水とかち合ってしまった。
更に、魚介類が豊富で名物とはいえ、何かの拍子で汚染されたら現地の人たちの生活はどうなるのだろうか。
ヴェネツィア本島とその周辺は申し分なく美しいが、反面玄関口となるイタリア半島の方は空港もあるし、空港周辺は工業地帯のようにもなっている。
そこから、あるいはヴェネツィアへのクルーズ船が海を汚染させたらどうなるのだろうか…。
三年後に起こる東日本大震災を経て、ヴェネツィアに対する複雑な感情は一層強くなった。