頑健な官僚制をルーツにもつ企業組織は人事管理の方向性として、コスト削減理由による標準化を希求する。それは時代、社会変遷に対しての組織の非柔軟化を招くが、すぐには変わらない。しかしながら、突然現れたこの人生100年時代のあまたの環境変化にいずれ変わらざるを得ないと感じている。

2番目に関しては、企業努力だけでは組織を軸にした生き方を変えるのは難しい。一つ目の課題は企業に入る前の教育機関の問題である。現行の教育機関は「人類の知見の伝達」教育のみに終始し、あまりにも保守的である。卒業後の就業につながる個々人のキャリア開発教育をもっと充実させるべきだ。

キャリアとは個々人の職業を含むこれからの活動計画である。開発とはデベロップメント、潜在的には自分の中に持っているが漠然としている将来の活動イメージ、それを顕在化させることである。この卒業後の自分の活動計画を、多様な、学際的な見地から具体的にはっきりさせる教育の実行が期待される。

例えば実践的な専門教育である。創造力強化教育、オリジナリティ強化教育、ヒューマニティ強化教育、ディベート教育、新テクノロジー教育などである。このキャリア開発教育の学習プログラムの猛勉強を通して「自分はいったい何者か?」「自分はいったい何をしたいのか?」など、いわゆる個々人のアイデンティティが確立される。

なおかつ自己認識も明確になってくる。こういう状態で学校を卒業して企業に入社後、企業側とも連動し、「キャリア自律」、「個を軸にしたキャリア」という話になるのではないか。

二つ目の課題は国家体制、政府政策の問題である。企業の課題、教育機関の課題と複合的課題は多いが、環境整備をするのは政府の役割だ。例えば教育制度、雇用流動化政策などだ。他に、法制度、税制度、社会保障制度などの再設計が必須になる。ところが長寿命化による社会変化の進行度があまりにも急激なため、現状では社会体制も確固たる制度が作られてはいない。

以上から、教育機関も企業も、政府も、人生100年時代のキャリア改革に向けての意識はあるかもしれないが、具体的には遅々として進まないであろう。社会はすぐには変われないのだ。


※3 雇用され得る価値ある能力や資質のこと

 

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