正直不安だった。

「まさか、自分がマリファナを吸うなんて!」思ってもいなかった。この期に及んで僕はまだ躊躇(ためら)っていた。

吾郎を見ると、無理やりガンジャを勧めるわけでもなく、独りその酔いに浸り、自分だけの世界を楽しんでいるようだった。

僕は覚悟を決めてガンジャを口に咥えると、煙草を吸うように煙を燻(くゆ)らせた。次に彼の真似をして、吸い込んだ煙を肺にしばらく溜(た)めてから静かに吐き出した。ものの数秒も経たないうちに、体がぐらりと揺れて、床に倒れそうになる。

「初めて吸った時は誰でも効き過ぎるんだ。遠慮しないでベッドに横になってもいいんだよ」

吾郎は僕から受け取ったガンジャを何度か吸うと、再びシタールを奏で始めた。

僕はとても遠くに感じるベッドまで歩き、倒れ込むように横たわった。意識ははっきりしているのに、体が自分の意思に反して全く動かない。

聴覚だけが異常に鋭くなり、遠くの小さな物音や、吾郎の演奏のわずかな〝ぶれ〟も聞き分けることができた。

ベッドの上に仰向けになっていると、体ごと地球の底に向かって、引きずり込まれそうに感じる。

酒の酔いとは明らかに違う、初めて経験する感覚だ。滑り落ちる肉体に恐怖はなく、皮膚が粟立つような喜びさえあった。

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