「ちょうど一服しようと思っていたところなんだ。一服といっても、煙草じゃなく、ガンジャだけどね」
吾郎はいたずらっぽくウインクしてみせた。それは十年来の友が訪ねてきた時のように親しげな表情だった。
インドの空気にすっかり馴染(なじ)んでいるように見える吾郎は、ゆったりとした動作で、壁にかかっているショルダーバッグから、五センチぐらいの丸いプラスチック容器を取り出した。
彼は床に座ると、その容器の蓋を開け、小さな黒褐色の塊を一つ掌(てのひら)にのせた。ガンジャと呼ばれる大麻の葉と茎の樹液を固めたものだ。
吾郎はそれをライターで炙(あぶ)り、粉状になるまで揉みほぐすと、一本の煙草から丁寧に葉を全部取り出し、その葉とガンジャを混ぜて元のように巻紙の中に戻した。
僕はマリファナの類(たぐい)を見るのは初めてだった。雑誌などで多少の知識はあったが、それが今目の前で行われている。
吾郎は僕ににっこりと微笑み、それを口に咥(くわ)えると、火をつけ、ガンジャの煙を胸いっぱいに吸い込むようにしてゆっくりと吐き出した。
部屋に紫煙とともに、マリファナ特有のものなのだろうか? ……青草を燻(いぶ)したような鼻につく強い匂いが広がる。
「君もどう?」
吾郎はもう一度ガンジャをじっくりと味わうように吸うと、それを差し出した。僕は断ることができなかった。