それ以降、僕はロックに傾倒し、ギターを弾き始める。ギターは救いだった。

忌まわしい過去の出来事から僕を解放してくれた。ギターからつまびきだされる音はすべての世界を凌駕し、石段に流れる赤黒い血を忘れさせてくれた。

八事の交差点から南に向かった石川橋に「atom」というロック喫茶があった。学校が終わると僕たちは、毎日のようにそこに入り浸った。

高橋は学ラン姿を気にすることなく、ジントニックを注文する。セブンスターを器用に箱から取り出し、トントンとフィルターを机に打ち付け、口に咥えて火を点ける。

リクエストしたイーグルスのアルバムが流れる中、高橋は紫煙をくゆらせながら、コーラをストローで啜(すす)る僕をしみじみと見つめて言う。

「お前が真面目すぎるのは女を知らないからだ。今度紹介してやるよ」

高橋が女に顔が広いのは知っている。僕は視線を外して答えた。

「いや、そういうのはいい」

二人が挟む木製のテーブルにはコインで傷つけられたいたずら書きが無数にある。中でも女性器を模したリアルな彫刻が目を引く。

「興味ないのか?」

「ない」

毅然と答える僕に、軽く高橋が応える。

「今度、すぐできる女を呼んどくな」

僕は相手にするのをやめた。でも拒む僕を無視して、高橋は喜々として計画を進めてゆく。

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