長瀬 律

結局、高橋が言う訳のわからない理由とお膳立てで、高二の秋に初体験を済ませた。

親が外出中の高橋のガールフレンドの家に、寛美という女の子を呼び出した。寛美はショートの髪が似合う、よく笑う女の子だった。

フライドチキンとバドワイザーでひとしきり盛り上がった後、高橋と彼女が示し合わせたように隣の部屋に消えた。暫くすると壁越しにあからさまな喘ぎ声が聞こえ始めた。

行き場がなくなった時間の中、僕は寛美を押し倒し身体をまさぐった。寛美はわずかな抵抗を見せたが、まもなく僕を受け入れた。

「お前を気に入っていたし、簡単に股を広げそうだったから声を掛けただけだぞ。本当にいいのか。まだ他の女も紹介できるぞ」

「いや、いい」

「初めての女に操(みさお)を立てんのか? これだから童貞くんは」

高橋にからかわれたが、僕は気に留めなかった。

下半身に我慢と理性がない高橋と違い、僕はその面では極めて真面目でノーマルな人間だった。寛美は十人並みの容姿ではあったが、隣にいても気を使わないでいられる女の子だった。

細い雨が降る朝だった。通学途中のバスの中から、見知らぬ男と一つの傘で寄り添い歩く寛美を見かけた。僕はそのことを寛美に問い質(ただ)すことはしなかった。ただ、寛美の僕への関心が急激になくなってゆくのがわかった。

高橋に相談し、高橋の彼女から寛美に訊いてもらった。数日後、想定していた通りの答えが返ってきた。

「すまん」

生真面目に謝る高橋がおかしかった。僕が寛美に執着することはなかった。

人を殺した忌まわしい僕が、人並みに青春を謳歌することなど許されるはずがない。それだけではない。おじさんを殺めた呪縛は、心の支えだったギターさえも容易に取り上げてしまう。

喧嘩に巻き込まれ、指に後遺症が残り、上手くギターが弾けなくなってしまったのだ。希望の支えだったギターを、沙耶伽の父親はあざけるように簡単に奪い取ってゆく。