でもわかっていた。僕がこの町に戻ることはない。

高橋が運転するバイクに乗り、僕らは毎日図書館に通った。

授業の出席日数は足りていた。学校より図書館の方が、勉強が捗(はかど)った。閉館時間まで毎日二人で過去問題を解き、傾向の対策に時間を費やした。僕らの前にオレンジ色の問題集が高く積まれた。

クラーク博士の銅像の写真をベッドスタンドに飾り、春からの札幌での高橋との生活を夢見て机に向かった。零時過ぎ、眠気を覚ますため窓を開け放した。

夜陰に紛れ、町の喧騒が聞こえてくる。車の排気音、酔っぱらいの怒声、遠くから救急車のサイレン。虫の音しか聞こえなかった子供の頃とは大違いだ。

今から風呂を浴び、もうひと頑張りする。共通一次まであと一週間しかない。

共通一次試験の最終レクチャーを受けるため、僕は久しぶりに学校に顔を出した。しかし来ると言っていた高橋の姿がない。

始業チャイムが鳴り終わるのと同時に、担任と副担任が教室に飛び込んで来た。

「皆落ち着いて聞いてくれ。昨夜、高橋が亡くなった。交通事故だ」

クラス中にざわつきが伝播する。

「病院に搬送されたが、施しようがなかったらしい。先程、おかあさんから連絡があった」

町の喧騒の中、遠くに聞こえた救急車のサイレンが僕の耳に蘇った。

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