この不可思議で腹立たしい光景を原田が見ていられるはずもなく、彼はこの部屋から出ていった。
自分の部屋に戻った原田がカバンの中からスマホを取り出すと、そこには奈美から伝言が入っていた。
手の中で操作してみると『さっきはゴメン』とキャラクターがしゃべり、動画が添付されていた。
原田は奈美の謝罪のコメントが入っていると思い、すぐにその動画を開いて見た。しかしそこには、奈美の姿はなく、走る電車が映っていた。
(吉村!)
原田はとっさにその動画を停止しようとしたが、動画は停止することなく、電車の闇の中には吉村の顔が浮かんでいた。そして、その吉村が静かに語りかけてくる。
「原田くん、僕の頼みを流してしまうつもりでしょ。DVDも折って捨てちゃったし」
スマホから流れてくる吉村の声に原田は慌てて言う。
「いや、そんなことない! 吉村のことはずっと考えてたよ!」
この答えに、吉村はニヤリと笑って言った。
「いいよ、別に。原田くんのことを全面信用しているわけじゃないから、僕は奈美ちゃんに近づいたんだし……」
「あ、奈美は」
「奈美ちゃんは、僕が見えるんだよね。よかったよ。だから話が通じやすくてさ。僕たち体の相性もピッタリだし、毎日楽しく暮らしてるよ」
楽しそうに語る吉村の顔を、原田はただ黙って見つめるしかなかった。
【前回の記事を読む】彼女が久しぶりに部屋に呼んでくれたのはいいとして、最後の「あたしも話があるし」のセリフが引っかかった