電車の走る場所

「えっ? 殺される? 俺が?」

豆鉄砲をくらったような原田の顔に、吉村はにこやかに話をする。

「そりゃそうでしょ。原田くんは僕の計画を知ってしまったわけだし」

「計画って……俺は誰にもしゃべらないよ!」

「それはどうでもいいよ。原田くんは殺すより殺される側を選んだってことだから、今後いろいろな場所で気をつけた方がいいよ」

この言葉を聞いて原田は再び慌てた。

「ちょっと待った! 俺は殺されるなんてまっぴらだ! 冗談じゃない!」

「それじゃ、3人を殺す側になる? 僕を直接イジメなかった原田くんだから、一番に殺す役を相談したんだからね。快く引き受けてよ」

「そっ、それは……ちょっと時間をくれないかな。人殺しって、そんなに簡単に、即席にできるものじゃないでしょ」

「ふーん。まあ、いいよ。ちょっと待ってみるよ。でも、たくさんは待てないからね。時間が経つにつれて、きみは殺される側になるってこと覚えておいてよ」

「あ、ああ」

原田がうなずいたことを確認したかのように、テレビ画面が消えた。吉村の顔が見えなくなると、どっと疲れが出た原田はその場に倒れ込んだ。額や首筋には汗が流れ、なんとなく眩暈がしていた。目を閉じると、その瞼の裏にも吉村の顔が浮かんできて頭を抱えた。

どのくらいの時間か、原田は膝を抱えたまま部屋の中でボンヤリしていた。すると、時間が経つにつれ何か吉村の言ったことがばかばかしく思えてきた。

(俺が吉村のために人殺しをするって? 3人も人を殺すって? なんだそれ。そんなことしたら死刑判決確定の凶悪犯になっちまうじゃないか)

「はっ、冗談じゃない。ばっかじゃないのか」

原田は立ち上がると冷蔵庫から冷えたペットボトルを取り出し、冷たい水を体の中に流し込んだ。そして、電車の画像をつなぎ合わせたDVDを割るとガムテープでぐるぐる巻きにしてゴミ箱に放り込んだ。

(吉村とは縁を切ったからな! 俺は何もかかわらないぞ!)

心の中で強く言い切った原田は、電車や吉村のことを忘れるように心がけた。