翌日、大学でカノジョの奈美を見つけ、いつものように手を振って近づいていく。
「奈美、おはよ!」
「あ、おはよ」
原田の顔をチラッと見て、そっけない挨拶をする奈美に少し違和感を覚えながら言った。
「今日さ、奈美の部屋に行っていい?」
この問いに、彼女は再び原田をチラッと見ると即答した。
「今日はちょっとダメなんだ」
「え、なんか用事あるの?」
「うん、まあ……あっ、またそのうち連絡するから」
こう言ったかと思うと手を振って原田の前から姿を消した奈美に、彼は何か距離を感じた。だからと言って、今彼女をつかまえてあれこれ聞き出すのも束縛しているようでイヤな感じがしたため、この日はそのまま見送った。
次の日、奈美は大学に来ていたようだが、原田の前に姿を見せることがなかった。そこで、彼女の友達に声をかけると、奈美は大学からそのままバイトに行ったとのこと。確かに今日は彼女のバイトの曜日だったため、原田は疑うことなく奈美の行動を受け入れた。
日にちが変わり、大学で彼女を見つけたので、原田は駆け寄って言った。
「おーい、奈美。ひさしぶり!」
「ひさしぶりってほど会ってないわけじゃないでしょ」
原田にとってはこの数日が長く感じていたため、本当にひさしぶりな感じがしていた。しかし、奈美にとっては、そうではなかったらしい。そんな彼女に原田は思いのたけをぶつけるように口を開く。
「あのさ、今日、奈美の部屋に……」
ここまで言うと、奈美が彼を見て言った。
「部屋に来ていいよ。講義が終わったら、そのまま来れば。あたしも話があるし」
「あっ、そう……わかった」
この後、講義を受けながら原田は思った。奈美が部屋に呼んでくれたのはいいとして、最後の「あたしも話があるし」のセリフが引っかかった。
(まさか、部屋に行ったら他に男がいて、さようならって言われるんじゃないだろうな……)
彼の気持ちが不安定なまま講義が終了すると、ふたりは共に大学の門を出た。困惑気味の原田と、なんとなくうれしそうな奈美のふたりは、コンビニに寄りワインとおつまみ、軽食を買い込み彼女の部屋に入った。
奈美は親の仕送りが多いため、原田より良い部屋でいい暮らしをしている。彼女にとってバイトは、ちょっとした小遣い稼ぎのようだった。
「ワイン飲む? それともビール?」
そう言って奈美がグラスを用意している間、原田は部屋を見回していた。
(どっからか男が出てくるんじゃないだろうな)
しかし、彼の不安は的中することなく、奈美はベッドの前の座卓テーブルにワイングラスを置き、ワインを注ぎ始めた。自分と奈美しか部屋にいないことがわかった原田は、安心して彼女の隣のクッションに腰を下ろすと、ワインを口にしてから彼女を抱きしめた。
「奈美ぃ、この部屋に来れてうれしいよぉ」
そう言って、彼女を押し倒そうとしたとき、奈美は原田の体を押し返して言った。
「ちょっと待って、原田くん。あのね、吉村くんって知ってる?」
突然に聞かされた吉村の名前に驚いた原田は、彼女を抱きしめることをやめた。そんな彼に奈美は淡々と言う。
【前回の記事を読む】画面に映ったのはいじめで死んだ同級生。「本当に悪いと思ってるなら…」