電車の走る場所
再生した映像には電車とともに男の顔が連続で映し出され、それにより画面の中の男から小さな声が聞こえた。
「やった!」
微かな声を聞いた原田は、思わず喜びの声をあげた。次に、小さな声が何を言っているのか聞き取るために耳を澄ましてみた。すると、だんだんと、男の声が鮮明に聞こえてきた。
「僕が誰だかわかる?」
「は?」
思いもしなかった質問に、原田は画面を凝視した。
彼に向かってしゃべっている男の顔は、険しい表情だがよく見ると少年の顔をしていた。どれくらいか、画面を見続けた原田はその顔を思い出した。
「吉村……」
原田が口に出した吉村とは、高校時代のクラスメイトで卒業前に自殺してしまった男子だった。
「やっと気づいてくれたんだ。ずっと原田くんに呼びかけていた甲斐があったよ」
この言葉に、原田はDVDのスイッチを消そうとした。そのとき、画面から吉村の声が響いた。
「原田くん待って! 画面を消さないで!」
この言葉に身体をこわばらせた原田はスイッチを消す手を止めた。
「ああ、よかったあ。原田くん、ありがとう」
画面の中の吉村の顔にそう言われても、返す言葉もなく映像の顔を見た。そして、恐る恐る口を開いた。
「吉村……おまえ、幽霊なのか?」
この質問に画面の吉村の顔はコックリうなずくと、目を剝いている原田に言った。
「今の僕は幽霊かもしれない。だって、高校で田端や福井、今村なんかにイジメられて、先生からも見放され、もう生きていたくなくなっちゃって電車に飛び込んじゃったんだから。仕方ないよね」
この言葉を聞いて、画面の前の原田はガタガタと震え出した。今まで幽霊とかは全く信じていなかった彼は、目の前にそういうものが現れるとは思っていなかったからだ。原田は、この恐怖の状況をどうにかしたいと思い、口を開いた。
「俺は、おまえをイジメていなかったし、田端たちとも付き合いがないんだ。だから、俺のところに出るのはお門違いじゃないか?」