そう言うと原田は再び映像を切ろうとした。しかし、手が震えているせいか指がうまく動かずDVDの動きを止めることができない。というか、時間的には映像がもう切れているはずの時間だったが、吉村の力なのか、不思議と電車の画面を消すことができなかった。映像の前で慌てている原田に、画面の中の同級生が話しかける。
「原田くんは、高校の頃、僕がイジメられているのをいつも見ていたよね。近づかず、遠からず、物陰からこっそりとイジメられている僕の姿を見ていたよね」
「そっ、それは……田端たちをやめさせようと思ったんだけど、いつも言い出せなくて、やっぱり俺も奴らが怖くて……」
画面の前であたふたとしている原田に、吉村はニコリと笑っていた。
「言い訳はいいよ。きみは僕がイジメられているのが面白かったんだろ。知ってるよ。きみが物影で笑いながら僕を見ていたこと」
この言葉に原田は両手を合わせて頭を下げた。
「ゴメン! 悪気はなかったんだ。まさか、あのイジメでおまえが死んじゃうなんて思ってなかったから。申し訳ない! ごめんなさい!」
「そんな謝ってくれなくてもいいよ。別にいま謝ってもらっても、僕はもう死んじゃっているし……」
吉村は小さく首を横に振ったあと、原田を見据えてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「でも、もし本当に悪いと思ってるなら、田端、福井、今村を殺してくれないかな」
「は?」
思ってもみなかった吉村の言葉に原田は事情が呑み込めなかった。そんな彼に画面の顔は淡々と話を続ける。
「原田くんならやってくれるよね。だって僕に申し訳ないって言ってくれたんだものね」
「いや、それはちょっと……。だってそれは人殺しじゃないか」
「イジメで人を自殺に追いやることだって人殺しだよ」
「それは……でも、だからって言って、俺は3人もの人間を殺せない! 人殺しにはなれないよ!」
原田の言い分に、吉村は少しの間沈黙すると、静かに口を開いた。
「ふーん、ならいいよ。他の人に頼む」
これを聞いて原田はホッと息をついた。肩の力が抜けた彼に、吉村は言った。
「田端、福井、今村の誰かに殺しを頼むよ。でもそのときの原田くんは、殺される側だからね」
【前回の記事を読む】日増しに大きくなる黒い影。それは「なにか、しゃべっている……」