奈美の声に、原田は彼女の肩から手を離し、つられて入口の方を見た。しかし、原田の目には何も見えない。そんな彼の横で、奈美は手を振り吉村の名前を呼ぶ。

「吉村くん、こっちこっち。原田くんも来てるんだけど、今、ちょうど吉村くんのことを話したところ。たぶん原田くんにもわかってもらえたと思うよ。あたしたちのコト」

空間に話しかける一人芝居のような奈美の動きを、原田は黙って見つめていた。

(俺をダマそうと思ってやっているのか?)

何かキツネにつままれたような感じだったが、すぐにそれが彼女の一人芝居ではないことに気づかされた。

「えっ? なに? ……やだ、まだ原田くんいるよ」

そう言うと彼女は立ち上がり、後ろにあったベッドに倒れ込んだ。

「あっ、まって、まだ……いや、原田くんが見てるし……」

原田の前でよがる奈美の服が、彼女の手ではなく剥がれ落ちていく様は、彼女を抱くもうひとりの誰かがいることを物語っていた。

悦びの声を上げる奈美を目にして、原田は見えないものに向かって言った。

「おい、吉村なのか? 吉村なのか! 吉村だったら、やめてくれ! 奈美を放してくれ!」

この原田の言葉を聞いたかのように、奈美の動きが止まった。しかし、彼女は大きく息をすると、額の汗をぬぐって言った。

「いや、吉村くん、やめないで……」

彼女のこの声により、再び奈美の体は動き出し、彼女の口からは官能の声が漏れ出した。