シニア世代のための「万葉集百人一首」
二十八 け 191
けころもを 時かたまけて 出でましし
宇陀の大野は 思ほえむかも
皇子尊(みこのみこと)の宮の舎人
訳 春冬の狩の時節を待ち受けてお出ましになった宇陀の大野は、これからも思い出されることだろう
【注】1 皇子尊=日並皇子尊=日に並ぶ皇子の意。草壁皇子に限って言う
【注】2けころもを=「時」の枕詞
【注】3かたまく=片設く=(その時節を)待ち受ける
【注】4宇陀の大野=現、奈良県宇陀市の山野一帯のこと
【注】5思ほえむかも=想い出の悲しみのみに生きねばならぬであろうことへの嘆き
二十九 け 1578
今朝鳴きて行(ゆ)きし雁(かり)が音(ね) 寒(さむ)みかも この野の浅茅(あさぢ) 色付きにける
阿倍朝臣虫麻呂(あべのあそみむしまろ)
訳 今朝鳴いて行った雁の声が寒々していたからか、この野の浅茅が色づいた
【注】阿倍朝臣虫麻呂=大伴坂上郎女(おほとものさかのうえのいらつめ)のいとこ