「俺はいい。水だけもらおう」
雑誌をめくっているエドゥゲーフが雪舟に目を向けた。
「おい、雪舟! 見てくれ、この女優、この前、見た映画に出てたんだ。本当にいい女だったぜ?」
雪舟は、エドゥゲーフに近づいて、彼が開いている雑誌を落ち着き払った表情で覗き込んだ。
興奮ぎみなエドゥゲーフの軽快かつひょうきんな声が部屋中に響き渡った。
「見ろよ! この脚線美、たまらないねえ。ゾクゾクするよ。こんな女と付き合えたら死んでもいいよな」
「なんだ、ラナ・ターナーじゃないか」
エドゥゲーフの目がさらに輝いた。
「ラナ・ターナーって言うのか」
雪舟は、雑誌から顔をあげた。
「もう、三度も離婚しているんだってな」
エドゥゲーフは、ぽかんとして、雪舟の顔を見た。
「ほ、本当か?」
雪舟は、エドゥゲーフに背を向けて、部屋の真ん中に向かって歩き出した。
エドゥゲーフは、また、そのページを覗き込んで呟いた。
「この顔で、三回も離婚しているのか……」