夏休みで久しぶりに田舎が見たかったとか、父さんが元気か心配してとか、理由にもならないことを照れくさそうに言って笑っている。

夏休みだからどこも混むだろうが、ドライブにでも連れていこうかと言ってみたものの、いいと素っ気ない。

翌日は孝介と一緒に「フォレスト・ビラッジ」に行って、野菜の積み下ろしを手伝ったり、売店の女の子と仲良くなって、店を手伝ったりしていた。孝介は支配人に頼んで温泉プールにも行ける手はずをしてやった。

「気持ち良かった。いっぱい泳いでせいせいした」

来たときよりはだいぶ屈託のない由布子に戻っていた。

三日が過ぎ、由布子は来たときと同じ格好でスポーツバッグを肩にした。孝介は時間に余裕を持たせて、峠を一つ越えた先の駅まで送っていくことにした。

「あの雲、良いなあ、どこにだって行ける」

正面の山の頂に、白い雲が流れていた。

「もう、前みたいにはなれないんだね。父さんと母さんが居る、普通の家……」

妻の美智子が都会での生活を選び、俺がもう一度農業に賭けたくなった。俺の勝手で娘が犠牲になった。

由布子を都会の学校に通わせているのは良いことなのだ。美智子と自分が通った学校とは全く違う都会の学校で、由布子はのびのびと成長している。

しかし俺はもうあそこには居られなかった。よし子に何もしてやれなかったことだけを責めて毎日を生きていた。その上ふとした拍子に、よし子の優しいしぐさが突然浮かんできたりするのだった。

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