ハプロイド細胞は無限に細胞分裂できますが、ディプロイド細胞であるが故に無限には分裂できない足かせを負うことになります。
それは、ディプロイド細胞の染色体の末端部にテロメアという構造があり、細胞分裂とともにテロメアの長さが短くなり細胞が寿命を迎えるからです。
そこで、ディプロイド細胞が生き抜くためには、いったんハプロイド細胞の状態に戻って、細胞分裂を行うために「分裂回数券」として新しいテロメアを手に入れることが必要になります。この過程が減数分裂です。
この減数分裂によりできたヒトを含めた生物の卵子と精子はハプロイド細胞であり、その持ち主であるこの「体」、人はいつか必ず死んでしまうから種として繋げるために、卵子と精子というハプロイド細胞をもち寄ってディプロイド細胞となり、新しい体をつくってそれを大事に育てていく。
そしてまたその新しい体の中にまた生殖細胞ができるというメカニズムをもつことで、種を繋げているのです(三木成夫著「ヒトのからだ―生物史的考察」[うぶすな書院、1997年]から引用)。
生殖死の波模様を見ていると、子どもや孫の幸せが自分の幸せのように感じられる理由が分かるのではないでしょうか。皆さんも子どもの辛い出来事に遭遇して胸を痛め、逆に嬉しい出来事では自分こと以上に喜んだ記憶があるのではないでしょうか。
自分のDNAを共有している子どもや孫の幸せは、ご機嫌な人生を送る上で大きな要素なのです。さらに、私という個体の寿命を延ばすという行為は、私たちの子種の子種、またその子種の子種の幸せを見届けることができることになります。
ホモ・サピエンスは約7万年前の認知革命(新しい思考と意志疎通の方法の登場)を経て、共同主観的な世界に暮らせるようになり、約1万年前に始まった農業革命で新たな局面を迎え、貨幣と帝国と宗教(イデオロギー)という三つの普遍的秩序が登場します。
約500年前に始まった科学革命は地上のあらゆる生命の運命を変えることになります(ユヴァル・ノア・ハラリ著・柴田裕之訳「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」[河出書房新社、2016年]より引用)。
これからの未来の進歩はさらに加速されるでしょう。ピーター・F・ドラッカーによると、ネクスト・ソサエティでは、少子高齢化は避けられないとしています(ピーター・F・ドラッカー著・上田惇生訳「ネクスト・ソサエティ ―歴史が見たことのない未来がはじまる―」[ダイヤモンド社、2002年]より引用)。
人類の進歩は様々な革命をもたらし、人間の幸せに大きな影響をもたらしてきましたが、長生きをして少子高齢化や知識社会が加速する将来の子どもや孫の世界を見届けたい気持ちです。
【前回の記事を読む】「目先の必要性を追うのでなく、一見不必要に思えることを継続してやることの重要性」