「これじゃ電車は無理だからタクシーに乗ろう。家のそばで降ろすから住所を教えてくれ」
「大丈夫ですよ。一人で帰れます」
「いいから、タクシー来たから早く乗れ」
目の前に止まったタクシーに有田を押し込み自分も乗り込んだ。有田は運転手に自宅の住所を教えると、佐伯の肩に自分の頭を乗せ、寝入ってしまった。
「全く。飲み過ぎなんだよ」
佐伯は苦笑しながら有田の寝顔をずっと眺めていた。三〇分位して有田の自宅に着き、有田を起こした。
「有田君、着いたぞ。降りるよ」
「う~ん、眠たいんですけど~」
そう言いながら有田は頭を上げ、タクシーから降りた。
「運転手さん、ちょっとここで待っていてください」
そう言うと、佐伯は有田を支えながら自宅前まで付き添った。
「ここがあたしの家で~す」
有田はバッグから鍵を取り出した。
「じゃあ、私はここで。明日はゆっくり休んでな」
佐伯がタクシーに戻ろうとすると、有田が呼び止めた。
「課長、ちょっと寄っていきます? お茶くらいなら出しますよ」
「ああ、しかしもう遅いからな。明日に備えて今日は帰るよ。また今度な」
「わかりました! じゃあ今度課長が来る時までには部屋を綺麗にしておきますね。おやすみなさい。今日はありがとうございました!」
有田は佐伯に向かって敬礼し、部屋に入って行った。
有田里香。素直でいい子だ。
フッと息をついた佐伯は待たせていたタクシーに乗り込んだ。
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