刑事狩り
佐伯は階段を駆け上がり急いで刑事課に入ると、加藤が取調室で誰かを取り調べているのが目に入った。
「あれは誰を調べている」
佐伯は近くにいた刑事を捕まえて詰問した。
「私も今来たばかりなんですが、なんか加藤係長が例の強盗の容疑者を逮捕したようでして」
「逮捕だと! 手塚!」
佐伯は大声で取調べの立会いをしていた手塚を呼びつけた。
「課長、おはようございます。ホシは全面自供ですよ」
「お前達、誰の許可を得て逮捕状を請求したんだ?」
「許可って、課長じゃないんですか? 加藤係長から聞きましたよ。課長からホシをパクれって指示が来たから、これから署に戻り逮捕状を請求するぞって。一課が来るまで待った方がいいんじゃないですかって言ったんですけど、課長の指示だからやるしかないって。
夜中に被害者を叩き起こして容疑者の写真見てもらったりして、大変だったんですよ。こんなことして大丈夫なんですかね。一課さん怒りませんかね?」手塚は眠い目をこすりながら言った。
「加藤の野郎」
佐伯は全身を震わせて取調室に近付いた。すると加藤は供述調書を作成している最中だった。「加藤、取調べを中断しろ」
佐伯の言葉に反応せず、加藤は淡々と被疑者とのやりとりを供述調書にまとめていく。
「加藤! 今すぐ取調べを中断しろ!」あまりの大声に被疑者がビクついた。
「そんな大声出したらホシがビビるじゃねぇか。課長さんよ、こっちはホシの調べをやってる最中なんだ。邪魔しないでくれ」
「いいから今すぐ調べを中断しろ!」
佐伯は取調室の中に入ろうとしたが、加藤に立ち塞がれた。