「この部屋はな、おめぇみたいな奴が入れる部屋じゃねぇんだよ。調べ室はホシとデカとの戦いの場だ。神聖な場所なんだよ。おめぇが調べ室に入ろうなんざ、百万年早ぇんだよ!」
加藤に恫喝された佐伯はひるんでしまい、取調室の中に足を踏み入れることができなくなった。
「課長! どうしました!」
出勤した城島が佐伯の背後から声をかけた。
「見ての通りだ。私は署長に報告してくる」佐伯は足取り重く、刑事課をあとにした。
午前八時半を回り、捜査一課強盗班担当管理官以下四名が署に到着した。「管理官、おはようございます。刑事課長の佐伯です」
「管理官の大石です。よろしく。ところで課長、署の前にマスコミがいたけど、何か事件が入ったの?」
「いえ、それがその」
「忙しそうだね。じゃあ早速、例の事件についての進捗状況を教えてもらおうか。容疑者の裏はとれた?」
佐伯が声を出そうとしたその時、加藤が取調室から声を上げた。
「手塚! ホシを留置場に入れるぞ!」
「ん? あのホシは?」
大石が反応し佐伯の顔を見た。
「それがその管理官、あれは例の強盗事件のホシなんです」
「強盗事件のホシって、逮捕状の請求は待てと指示をしたはずだが? 一体どういうことなんだ?」
大石が佐伯を睨んだ。
「申し訳ありません。現場に張り付いていた刑事からホシが家を出るという一報が入りまして、そのまま逃走されてはと思い、やむを得ずホシを任意同行しました」
「それならそれで、任意同行したあとでなぜ一課に報告しないんだ。うちらが今日来るのはわかっていたはずだ。一課に事件指揮のお伺いを立てておいてこれとは、うちらを馬鹿にしてるのか?」大石は怒りを露わにした。
するとその時、加藤が取調室から出て来た。
「課長! ホシは完落ちだ! しびれるね~」
そう言いながら加藤は手塚に被疑者を引き渡したあと、刑事課を出て行った。