「でも……」と遠慮していると、母はさらに頼もしく言いました。

「さっきも言ったけど、子育てが大変なのはいまだけなのよ。私のことは親戚のおばちゃんだと思って、いつでも、赤ちゃんをうちに連れてきてもいいからね」

「私も子守りしてあげるから頼りにしてよ」

調子に乗って口を挟んだ私の言葉に、若いお母さんはタオルのハンカチで目頭を押さえました。

「ありがとう、ヨーコちゃん、おばさん……」

このお母さんだけではなく、乳飲み子を持つどこの親に対しても、母は同じように励まし、手助けをしていました。そんな母を、私は誇らしく思ったし、父もお世話好きな母を温かく見守っていました。

町内の人たちの支えもあり、子どもたちはスクスクと育っていきます。夜泣きをしていた子どもたちはヨチヨチと歩けるようになると、十円玉を握りしめ、アヒルのような大きなおしりを左右に振りながら大きな声で「ちょうだいな~」と言いながら、みかどにやって来るのです。

我が子を見つめるような母は、お菓子を選ぶ子どもたちを優しく見守っていました。

ちびっ子一人ひとりを名前で呼べるのはみかどのおばさん以外いないでしょう。

夜泣きする赤ん坊を抱えて母を頼っていた頃の若いママたちも、月日が経つにつれ、たくましくなっているように思えました。

「うちの子、やっとみかどデビューができたわ。おばさん、ありがとう。これからもよろしくお願いします。いたずらしたら、ちゃんと叱ってね」

みかどデビューは、母にとっても幸せな瞬間でした。ここからは店を閉めてからの話になりますが、テレビを観ながら母は小言を言っておりました。

子育てに疲れた母親が乳飲み子を殺して自殺を図り、死にきれずにご主人と一緒に警察に出頭してきた、というニュースでした。

アナウンサーが精神科の先生に「この事件、どう思いますか?」と質問し、先生は「母親はきっと疲れていたんでしょうね……」と答えていました。

「そんなことぐらい誰だってわかるわよ。まったく……乳飲み子が大変なのは最初だけなんだから、近所の人たちが協力してあげなくっちゃ、関わらない人たちにも腹が立つわよね……お父さん」

父は「この子、大島に住んでいたら死なないですんだよな、みかどのおばさんがいるからな……」と返していました。

十 ちょっと長めのハシカです

ランドセルを背負っていた可愛い男の子も、中学生になると母親に「ババァ、ふざけんなよ!」と乱暴な言葉を使ったり、シカト(無視)をしたりします。

急な変化に不安になる母親たちが頼るのは――みかどのおばさんでした。

「おばさん、ちょっと……」と母を外に呼び出し、話し込む母親たちの姿を何度か見かけました。

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