一章 自我が目覚めるお年頃

十 ちょっと長めのハシカです

私は偶然、母と良一くんのお母さんとの会話を聞いたことがあります。

「どうしたの?」と聞く母に、良一くんのお母さんは暗い表情でこう言いました。

「うちの子、最近乱暴な口をきくんだけど……みかどには買いに来ている?」

「ちゃんと来ているわよ」

「そう……。うちは共働きであまり家にいないから。うちの子、不良になっちゃうのかな?」

良一くんのお母さんはさらに言い続けます。

「すごく仲がよかったのに亭主のことも無視したりするのよ……。それでいつもイライラしているの。学校の先生に相談したら大袈裟になるし、どうしたらいいのかわからなくて――」

母はそっと、彼女の手を握りました。

「中学生になって反抗期に入ったんだと思うよ。でも、ちょっと長めのハシカみたいなもんだから、母親はどんと構えていればいいのよ」

頼もしい母の言葉に、良一くんのお母さんの表情が少し明るくなりました。

「どんと……か、おばさん、やってみるわ」と、拳を作って胸を軽く叩いて了解ポーズを見せていました。

「あとね、仕事も大事かもしれないけど、こんなときこそ、美味しい料理を作ってあげるのも大切なんだよね」

「おばさん……私、働いているから夕食はいつも簡単なものばかりなのよ。しゃれた料理なんて、作ったことないわ」