「でも料理は大切なのよ。特に男子は中学生になると背丈が伸びるでしょ」

「牛乳はたくさん飲ませているわよ」

「牛乳だけじゃダメなのよ。鉄分や亜鉛がないと、骨は作れないのよ」

「へぇ、おばさん、よく知っているわね」

物陰で聞いていた私も「へぇ」と声を上げそうになりました。

母は得意そうに「この前読んだ女性週刊誌に書いてあったのよ」と手のうちを見せていました。

「特に脳の栄養には亜鉛が必要みたいよ。成長期の子どもには亜鉛や鉄分が大切らしいよ。鉄のフライパンで炒め物するといいんだって書いてあったよ」

「鉄分は、ホウレン草の中に入っているんでしょう? でも、亜鉛って……何に入っているの?」

良一くんのお母さんが首をひねっていると、すぐに母が言いました。

「亜鉛はね、ひじきとか、あさりとか海産物に多いらしいのよ。それからレバーにもたくさん入っているんだって。焼き鳥屋で買えばいいわよ」

「おばさん、本当に物知りね……。びっくりだわ」

私も驚きました。いくら女性週刊誌からの受け売りとはいっても、みんな覚えているなんて――。「さすが、みかどのおばさん」ってかけ声をかけたくなりました。

「脳みそに必要な栄養素が、骨の成長も助けるらしいよ。成長期の男の子はたくさんミネラルも取らないとダメみたいよ。不足していると身体全体がだるくなり、考えるのが面倒になって、乱暴な言葉や行動を引き起こしやすいって書いてあったわよ」

「あらっ、うちの子、そのミネラルは確実に不足しているわ……」

「断言はできないけど、とにかく美味しいもの作ってあげなさいな。私も良一くんのこと、大事にするから(笑)」

「わかった、美味しいもの作ってみる。おばさん……良一のこと、これからもよろしくお願いします」

「みかどでは、微妙な時期をお迎えのお坊ちゃまをえこひいきすることに決まっているから安心して~」と宣言した母に、良一くんのお母さんも笑顔になりました。

「ありがとう! みかどでえこひいきされたら良一も一万馬力だわ~」

「仕事から帰って来て、一生懸命に料理をしている母親の後ろ姿を見たら、絶対に裏切らないから大丈夫よ」という母の言葉に、お母さんは大きく頷きました。

最初とは打って変わって、明るい表情に変わりました。