一章 自我が目覚めるお年頃
十三 お巡りさん、子どもを信じてあげてください
その日は、誠くんが血相を変えて、「ねぇねぇ、おばさん聞いてよ~!」と呼吸を乱しながらみかどに入ってきました。そのとき、瞳が涙で濡れていました。
「どうしたの?」と私が質問すると、
「僕さ、いま、お巡りさんに捕まっちゃった……」と言うのです。
「えっ、なんで?」
誠くんは中学生になったばかり。悪いことをするような子ではないので、母も私も驚きました。
「お兄ちゃんからもらった自転車に乗っていたら、お巡りさんが、『オイ、止まれ!』って……」
自転車泥棒と間違えられたようです。
「『おまえの名前は?』って聞かれて……めちゃくちゃ怖かったよ」思い出したのか、誠くんの目に涙がまた溜まりました。
「頭に来ちゃうね! 交番に文句言ってあげようか?」
「えっ、おばさん、交番に行ってくれるの?」
「おばさんじゃなくて、うちの怖いおねえさんが行ってくれるわよ~。おねえさんは正義の味方だから、お巡りさんを叱ってくれるよ」
お菓子を棚に並べていた私は、いつの間にか怖いおねえさんになっておりました。「あら、怖いなんて言わないでよ。イメージが悪くなるでしょ!」とクレームを言うと、「正義の味方なのは本当だろう」と母が言いました。
「おねえさん、お巡りさんのこと、ビビらせてよ」
誠くんは期待を込めた目で、私をじっと見つめていました。