一章 自我が目覚めるお年頃
十一 ヤンキーお坊ちゃまのご来店
確か、母と二人で店番をしていた日のことでした。
珍しくお客さんが少なく、まったりした日だな~と思いながら駄菓子を並べていると、突然、目つきの悪い三人組の高校生が店に入ってきました。
学ラン姿ですが、剃り込みをばっちり決め、眉毛も細く剃っていて、髪の毛は完璧にリーゼントスタイル。典型的なヤンキーです。私は恐怖で身も心も凍りつきました。それぐらい彼らにはすごみがあって怖かったのです。
ところが、みかどのおばさんは平気な顔で、そのうちの一人に向かって話しかけました。
「あらっ、久しぶりねぇ。何年生になったの?」
驚いた彼は、母の顔をまじまじと見つめました。
「高校二年生だよ。おばさん……俺のこと、覚えていてくれたの……?」「おばさんが、アンタのことを忘れるわけがないじゃない。久しぶりにみかどに来てくれて嬉しいよ~」
「うん、ちょっと、みかどに行こうかって話になってさ――おじさんは? 元気?」三人は店内を見回しました。
「元気過ぎて友だちと山登りに行っているから六時を過ぎないと帰ってこないんだけどね」
母の言葉を聞いて、彼らの表情が少し柔らかくなりました。
三人は駄菓子の並んだ棚を眺めながら、「おっ、あんこ玉だ、なつかしいな~」「こうやって駄菓子を見ていると、ガキの頃を思い出すなぁ……」と話し合っていました。
「俺、ラムネとお麩、買おう」
「俺は……うまい棒とすももをちょうだい」
三人はそれぞれ、ポケットから小銭を出して母に支払いました。
先に支払いをすませた一人が、コリスの当たり付ガムを指さしながら呟きました。
「俺さ~、小学校のとき、みかどで一等賞当たったんだ。いま思い出したよ」となつかしそうな顔をしました。母は三人の顔を見比べました。
「他の二人もこの辺の子なの……?」
一人が胸を張り、敬礼するようなしぐさをしました。
「おばさん、俺はさ、商店街の丸中っていう八百屋の孫ですよ」
「あら、そうなの! それは失礼しました」と母は目を丸くすると、お巡りさんのように敬礼をしながら言いました。
「できの悪い孫で~す」と他の子が茶化すと「そういうおまえも、できの悪い亀戸の魚屋の息子じゃないか」と言い返していました。
「ねぇ、アンタたち。自分たちのこと、できが悪いなんて言っちゃダメだよ。おばさんから見たら、みんな立派になってるわよ」
次の瞬間、三人とも、吊り上がっていた目尻が優しくなりました。表情も屈託のない子どもの姿になり、「立派だって」とお互いをこづき合い、照れくさそうにじゃれ合っています。