「あんな小さい子がこんなに立派になったんだ。おばさんは嬉しいよ……」母が割烹着の端で涙を拭き始め、母の喜んでいる姿をじっと見つめている彼らがいました。
昔みかどに来ていた子と言われても、最初の恐怖がなかなか消えなかった私は、(え~、この子たちのどこが立派なの?)と思っていました。しかし、母が言葉を発するたび、彼らの表情がどんどん穏やかになるのを見て、驚くやら感心するやら。
彼らが「また来るね」と言って出て行ったあと、母に「あの子たちのどこが立派なの?」と聞くと、母からは意外な答えが返ってきました。
「あの子は、小学生の頃、女の子にいじめられてばかりいたのよ」
「えっ、あの子が? 信じられない……」
「おとなしくていい子だったんだよ。あんな格好をしているのは、いまだけだよ……」
私が「長めのハシカ?」と聞くと、母は「アンタ、長めのハシカ、どこで聞いたの?」と驚いていました。
夕方、高尾山から戻った父に三人の話をすると、「ヨーコ、みかどのおばさんは、子どもたちにとったらすごい人なんだよ」と言いました。
「すごい人かぁ……」
「お母さん、まるで神さまみたいだったよ……」
「おまえが言う通り、神さまなんだよ。だから、お母さんのこともっと大事にしろよ」
「ハイハイ」
実は当時、大島駅前にゲームセンターがあって、ヤクザが出入りしているという噂が絶えませんでした。母は、その周囲を父との散歩コースにして、知っている子がいると、声をかけたりしていました。母なりに心配をしていたようです。そして、父もそんな母に危険がないように、いつもお伴をしていました。
「みかどに買いに来た子どもは、絶対ヤクザ者(もん)にさせない」が口癖だった母は、子どもたちが道を踏み外さないよう、見守っていました。
何年経っても子どもの顔を忘れず、将来を考えるおばさんだからこそ、子どもたちに愛されていたのだと思いました。
【前回の記事を読む】反抗期はちょっと長めのハシカみたいなもの 母親たちの良き相談相手として話を聞く母の姿。