一章 自我が目覚めるお年頃
七 大人はみんなバカだから
お正月が過ぎ、仕事が忙しくなった私はみかどを手伝う機会がすっかり遠のいていました。
桜の咲く頃だったと思います。たまたま、私が店にいると、テク坊がやってきました。相変わらず私に大声で話しかけてきました。
「あれ、おねえさん、久しぶり! 少し痩せた? ……なんか美人になったね」バカだのクソだの悪態ついていたテク坊にそう言われて、私は正直面食らいました。
「テク坊……お世辞がうまくなったわね」次の瞬間、母がテク坊に質問したのです。
「テク、いま、何年生?」
「五年生だけどなんで? おばさん」
「五年生だってちゃんと聞こえたかしら? ヨーコさ~ん」
もちろん聞こえたし、以前、母と交わした会話を思い出し、確かに五年生になったテク坊はしっかり成長していました。
やはり、子どもを見極める力は一級品。みかどのおばさんには誰もかないません。「おねえさんの名前、ヨーコっていうの? じゃあ、今度からヨーコさんって呼ばなきゃ」と屈託のない表情で言うテク坊に、私も微笑み返しました。
母に完璧に負けた形でしたが、不思議とさわやかな気持ちになり、子どもの成長をこんな形で知ることができた私は嬉しさで胸がいっぱいになりました。