九 みかどデビュー
私と妹が小学生の頃のことです。
夜遅くに近所の赤ん坊の泣く声がうるさくて、眠れなかったことがありました。「うるさくて眠れないよ～。どこの子かなぁ」と部屋から出てきた私たちに、母はすぐに「元気がいい声だから、伊藤さんちの子だね。一ヶ月前に生まれて、実家から昨日戻って来たばかりだよ」と教えてくれました。
まさか、「どこの子か」の答えがすぐに返ってくると思っていなかったので、私たちはびっくりしました。
「よく知っているね、お母さん」と言うと……、
「ヨーコ、当たり前だろう。お母さんは『大島のコンバット』なんだからな」と父が茶化しました。
「だって昨日、うちの前にタクシーが停まって、伊藤さんの旦那さんが赤ちゃんを抱いて降りて来たんだよ」と母は種明かしをしました。
そう話している間も、赤ちゃんは泣き続けています。
「それにしてもうるさいね……」と、うんざり顔の私と妹の背中を母は軽く叩きました。
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