翌日、父が珍しく仕事を休んで、いつもの病院に僕と母を送ってくれた。病院の玄関から歩いている時、いつ昨日のような症状が出るかもしれないと怖くなり、いつもより慎重に歩いた。病院ではいつもの検査をした。

診察を待合室で待っている間、「今日もジュース買ってほしい」と母に言ったが、母は僕の声が聞こえなかったのか、何か考えごとをしていたのか何も言わなかった。僕も、不思議とそれ以上話しかけなかった。

しばらくして、診察室から、「田中さんどうぞ」という声が聞こえてきた。僕と母は中に入ったが、母の顔は怒っているように見えた。

先生もいつもなら笑顔で「おはよう」と言うのに、何もしゃべらず、紙カルテの数値をずっと見ていた。

看護師さんから、「先生、お願いします」と声をかけられ、先生は初めて僕たちが診察室に入ったのに気づいたようであった。

先生は何も言わずにいたので、僕もしゃべってはいけないと思い下を向いていた。自分の指先を触りながら、気になっていたささくれを取ろうとしていた。

僕の横では母が、昨日の症状を先生に話していた。先生は黙って頷きながら聞いていた。母が話し終えると、先生が体を僕たちの方に向けて言った。

「ふらふらしたのは、驚いたね。怖かったね。実は、今日の検査でいつもの3倍以上尿たんぱくが出ていたんだ。それが原因だと思うけど、これ以上この病院で検査をしたり治療することはできない。大阪に子どもの腎臓に詳しい先生がいるから、そっちで診てもらってほしいと考えています。紹介状は書きますので」

事の重大性はわからなかったが、笑顔のない先生の表情やその先生の話を聞いていた母が唇をぐっとかみしめていた顔から、何か大変なことが僕の体で起きているんだと感じた。母も視線を上や下に忙しそうに動かしていた。

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