1年生の夏休み合宿以降、実のポジションがゴールキーパーに決まった。3年生まで部活動は一応継続したものの、ミッドフィールダーが希望であった実のサッカーに対する情熱は、この段階で急速にしぼんでしまった。
本来であれば自分の希望のポジションを主張すべきだったのだろうが、先輩や同級生があまり文句を言わない「内気な実」にゴールキーパーを押し付けたというのが大方の真相だろう。それだけゴールキーパーというポジションは嫌われていた。
後年、大学院修士課程のとき、筑波研究学園都市の高エネルギー物理学研究所(現在の高エネルギー加速器研究機構)に長期派遣となり、同研究所のサッカー部に入った。
当時は、サッカー好きの教授や職員が集まってミニゲームを昼休みに毎日行っていた。そのなかで、実は、守備力が高く、視野が広いので時々予想もしないところにスルーパスを出す能力が評価され、すぐに、筑波リーグのレギュラーに抜擢された。
ポジションは念願のミッドフィールダーである。中学時代より、サッカーがはるかに楽しくなった時期だった。
こんななかで、実の興味は、次第に別のところに移りはじめた。中学校入学の頃から、それなりに学力が高いかもしれないと気づき始め、中学1年生の後半になって勉強に対する意欲が急に湧いてきたのだ。
2年生になると、数学、英語に関しては能力別の授業が行われた。実は一応最上位クラスであったが、地方の公立中学校とはいえ、まわりの同級生がかなりの秀才に見えた。