第1章 自分の特徴は自分でもなかなか把握できない
新たな環境のなかで小さな気づきが増える
楽しい&つらい思い出/小学校時代
図画工作の授業が開始して、1時間ほどでほぼ目的の蒸気機関車と客車を作り上げた。残りの時間はできるだけ蒸気機関車らしく見せるため、工作用紙、のり、はさみで、煙突、動輪、運転室、炭水車を作ろうと考えていた。ただ、あまりにもありきたりの工作だったのでほとんど満足感もなく、物足りなさを強く感じていた。
そのときだった。担任の先生が、みんなの作業があまり進んでいないのを見て、「皆さん、どうですか。箱を使う工作なので、自動車や汽車は作りやすいですよね。でも、オートバイはできませんよ」と笑いながらおっしゃった。多分、先生の発言の意図は、遅れ気味であった生徒の工作を促すためのものであったに違いない。
想定どおりに蒸気機関車と客車をほぼ仕上げて、多少手持ち無沙汰にしていた実は、この先生の言葉で、いきなり「発奮スイッチ」が入ってしまった。そのまま提出すれば、間違いなく「最高点」が取れていたであろう作品「蒸気機関車と客車」を、何を思ったかいきなりつぶして、どうすればオートバイができるか考え始めてしまったのだ。
「オートバイができないはずはない」
残り時間は50分、何度も簡単な図面を描きながら、箱とその材料を使ってどうすればオートバイを作れるか考えてみたが、なかなか考えがまとまらなかった。そうこうしているうちに、先生から「残り時間10分です、できた人から先生に作品を見せてください」とのお話があり、同級生たちが次々に先生に作品を見せていた。
結局、時間切れとなった実は、工作用紙にオートバイの絵を描いて切り抜き、それをスタンドで立てかけただけの作品を先生に見せることになった。相当焦っていたこともあり、冷や汗びっしょりだった。完全な失敗作であった。
「蒸気機関車と客車」のままにしておけばよかったととても悔やんだが、一方で、そんな思い切った行動ができる自分にも正直驚いていた。
実の作品を見た先生は、苦笑いしながら「いつもの坂入君だったら、もっとよい作品ができたんじゃないの」と、先生の成績表に実の点数をつけていた。