これらは空間を契機とした連想記憶といえる。

キーボード操作に慣れたヒトは、見なくても操作できる。しかし、キーボードがないところで、キー配列を思い出そうとするとできない。つまり、記憶しているのではない。が、キーボードを見ると、指が覚えていたかのようにすぐに上手にタイプできる。

ここには視覚的な連想記憶が働いている。記憶は、神経細胞の結合パターンとして保持される。何度もキーボードを見て触っていると、神経細胞結合の発火の痕跡が残る。

キーボードを見たという刺激だけで、あるキーがこの辺にあったよなという記憶が活性化される。先行刺激が後続刺激への処理影響を与えることを、認知心理学でプライミング効果という[箱田裕司、都築誉史、川畑秀明、萩原滋,2010]。これを、ドナルド・ノーマンは「外部知識」と呼んだ[D.Aノーマン,1988]。

視覚は構造を把握できる

視覚は、いくつかの情報を同時に把握できる。そのためヒトは、複数の要素とそれらの関係からなる「構造」を認知できる。

例えば、一つの画面にやることのTO DOリストがあるとする。1個めと2個めを比べて、どっちを先にやるか考えているとき、眼は2つの項目を認知し、作業記憶の中において比べている。また、例えば、来週の出張の飛行機を予約しているとする。

WEBの画面を見て日時と出発時刻を入力し、どの会社のどのフライトにするか選択肢が出て、どれにするか検討しているとする。ヒトの頭の中では、日時と出発時刻とともに飛行機会社のブランド名も一緒に意識している。

ヒトが機械道具と複雑な情報をやり取りする必要があるとき、視覚のこの性質は二つの意味で決定的な役割を果たす。

⃝視覚抜きに、機械道具と構造的な情報のやり取りをするのは難しい。これが、音声だけでアプリを組むときの課題となる。

⃝逆に、構造を把握できるせいで、視覚向けにデザインされた空間的情報は油断するといくらでも複雑になる。これがグラフィカル・インターフェイスの落とし穴となる。

【前回の記事を読む】眼は進化に関して決定的な役割をし、ヒトの視覚も、長い生物の進化の末の発展形である

 

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5月22日 15:19