第1章 ヒト生体の情報処理
4 効果器官
① 手、骨、筋
身体と視覚が手指の器用さを支えている
手は、体幹がある姿勢をとり肩や腕が支えて、初めて器用に動く。指は、腕・肘・手首が動き支えることで、初めて器用に動く。これら身体の体性感覚と機械的動作系が、手指の器用さを支えている。
例えば庭師が高木の剪定をする。梯子にのぼり、自分の体の重心を感じながら安定姿勢をとる。剪定ばさみを取り出し、バランスを取りながら手腕を伸ばす。枝葉を切る。手を伸ばして、切られた枝葉を地面へ払い落す。このとき、庭師は、この木と地球の重力とカラダ全体で対話しつつ、手指を操作している。
また、手指は、眼にも支えられている。
例えば、ドアノブの位置を見ながら、そこをつかんでドアを開く。そして開いたドアを見る。また、左手に持った茶碗の位置を見つつ、右手の箸を動かし、ご飯を食べる。また、キーボードのキートップの文字を見て、手指でたたく。そして、テキストエディター上にAが入力されるのを見る。
手指は、ヒトのある意図に沿って動作している。そのとき、視覚的情報ないしヒトの環境が、その動作の意図と効果に意味を与えているといえる。このことは、どんなアプリも視覚や環境による手掛かりを利用できるという点を示唆する。
手指は移動距離に束縛される
手指は器用だが、欠点もある。
手指は機械動作なので、移動距離の束縛を受ける。手を動かし、マウスで別の場所のターゲットに移すという運動負荷に関し、その移動時間は、移動距離が大きいほど大きく、対象の大きさが大きいほど小さくなる。これをフィッツの法則という。
例えば、デスクトップパソコンで、メールの受信箱を眺め、いらないものを削除する。読む場所を設定する画面上のポインター位置と削除ボタンは、離れている。そのため、削除するのに、マウスだけでやるとポインターを移動することに時間がかかる。手指だけに頼ると、このように距離の束縛を受ける。