「まだ先のことだけど、いつかは墓じまいしないとね。月子はお母さんと一緒にお墓に入りたくないんじゃない。もちろんこれから先、まだまだ縁があると思うし」

今のところ三人の中で独身者は月子だけだ。

「私、入るかも。タンジュンに」

夫と離婚協議中の妹がいう。末っ子の妹はお父さん子だった。はたから見れば、しっかり者の長女、つかみどころのない次女、甘えっ子の三女というわかりやすい姉妹だ。

「何言ってんの。この墓苑、あんたの住んでいる場所から遠いじゃない。子ども達にここまで墓参りに来させるなんて酷だよ」

「えー。でも」

「まあ、ゆっくり考えてからね。きれいになったね、さ、お参りしよう」

先ほど墓苑の入り口で買い求めた仏花と缶ビール、缶ジュースを供えて、三人で手を合わせる。

「夢におかあさんがよく出てくるの。嫌なんだけどね」

月子が言うと、

「私の夢には出てきてくれない。どうして」

妹が不服そうに言う。

「夢に出てこないのはちゃんと成仏してるからだって、昔おばあちゃんが言ってた」

姉があっさりという。

「そうなの。よかった」

妹の顔が明るくなった。月子にとっては、母がまだ成仏してないってことか。沈殿した澱のように漂う母のおもかげに何の感情も湧き出ないのに。何か未練があって月子の夢に出てくるのか。

じりじりと真夏のような太陽が頭上近くに登ってきたが、風が少し止まってから、波のようにあとからあとから追いかけてきて、汗をかいた髪の間をすり抜けて乾かしていく。一瞬、懐かしさが込み上げてくる。この懐かしさは何なんだろう。

土曜日の午後、焼肉屋は盛況だった。

「やっぱりここの焼肉美味しいよね。お互い病気しないで健康で長生きしなきゃね」

「私たち、風邪引いたり熱出したりしたらおかあさんに怒られたよね」

「そうそう、非国民扱い」

煙の向こうで姉が息巻く。月子も母のエピソードを披露する。

「小学校三年の誕生日の日、庭のブランコで遊んでいたらランドセルの中のテストを見て血相変えて怒りにきたんだよね。その時のテスト五十点だった。私、誕生日が終業式と同じ日だから、通信簿が良くないと最悪な誕生日になった。今でも誕生日が好きじゃない。トラウマだわ」

「墓参りに来て、悪口で盛り上がるってどうよ。今頃あの世でくしゃみしてるんじゃない」

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