鶸色のすみか

説明を読む。虫にびっしりとついていた五穀米のような突起はなんと蜂の幼虫の繭だった。蜂は、蝶の幼虫を見つけると体表に穴を開けて卵を産み付ける。蜂の卵は、その蝶の幼虫の中で成長し孵化すると体表を破って出てくる。

毛穴に溜まって固くなった脂の塊がプチっと飛び出すように、何十匹も一斉に体表から飛び出すのだろうか。それが月子たちが見たあの姿だったのだ。

月子は画像を見ながら、慄然となり絶句した。幼虫の体表でその養分を抽出しながら、繭から成虫になる。五穀米の粒のように見えたあれは、一つ一つ蜂の繭だったのか。

そこまで理解して、月子はそっとスマホの画面を閉じた。天井を眺めて深く息を吸った。まず、蜂の幼虫に寄生された満身創痍の蝶の幼虫を哀れんだ。

自分とは関係のない種の卵を内包し、それを受動的にではあるが外敵から守り成長させ育む。まったく知らない間に蜂に操られ、何の関係もない蜂の幼虫のための心地よいすみかと化す。何て切ない身の上なのだろう。

それにしても、蜂の極めて洗練されたおそるべし生存戦略。蜜を吸い巣を作り、交尾するだけが蜂の生存理由ではなかった。皆生まれながらにして戦士なのだ。種が潰えることのないよう複雑な進化の過程を経て、ただ一心に今を生きているものたち。単体では生き残ることはできない生物の性(さが)。生きることの正しさってなんだろう。

サク、サク、サクと、青虫が葉っぱを食べている音が暗がりに響く。結婚祝いに友人からもらったガラス製の時計は今もリビングの壁で秒針を動かしている。緑の葉の浮き彫りのレリーフの装飾がついている。

目を閉じると、青虫が夜のキャベツ畑で葉っぱを咀嚼している音に聞こえる。それを聞きながら布団の中で丸くなり、眠りについた。青虫はいつまでもサクサクサクと時間を食べている。

六月になったので、梅雨の晴れ間に合わせてポスティングに出かける。自転車を漕ぎながら住宅の丘を見ると、積み上げられた抽斗のようだ。