鶸色のすみか

あ、今日、お墓参り。慌てて時計を見る。かけらはどこかに消えた。姉妹三人が顔を合わせるのはお正月ぶりだ。空梅雨で、空は憎らしいほどの晴天になった。姉の運転する白いBMWで墓地に向かった。カーブの多いドライブウェイを気持ち良く走る。

「暑いけれど天気で良かったわ。帰りは、久しぶりに明陽館の焼肉でも食べよう」

「うんうん」

妹と二人で頷く。お墓参りになんの感慨も持たない月子にとって、この日だけは姉と妹に会って、お喋りする相手がいて、おまけに焼肉ランチまでついているのだから嬉しい日だ。

山の中腹にある墓苑に到着した。墓苑の向かいは更地だったような気がするが、こんな山の上にも住宅が押し寄せていて、道路を挟んですぐ横に建売住宅が櫛比(しっぴ)のごとく並んでいる。

天気が良すぎて、駐車場のアスファルトも、御影石の彫像も、眼に映るすべてがハレーションを起こしたみたいにのっぺりと白い。ほのぼのとした表情の地蔵や布袋さんの彫像の前に積まれた一円玉や五円玉だけがひんやりとしている。

濃緑の山を背景に、ミニチュアの摩天楼みたいに御影石の墓石が連なっている。父が二十年前に大腸がんで亡くなり、兄が七年前に肝臓がんで亡くなり、母が一年前に亡くなった。今は、三人仲良く墓の下に眠る。

母は、骨粗鬆症、高血圧、心臓病、肺結核、脳血栓、がん、病気のオンパレードだった。訪問介護を受けながら姉妹が交代で世話をして、五年ほど車椅子生活を送り八十五歳で月子たちに見守られながら病院で亡くなった。母は最愛の息子が自分より先に死んでしまったことを除けば、概ね幸せな老後であったろう。

姉が持参して来た紙袋には、軍手、ビニール袋、雑巾と墓参りと掃除に必要なものが入っていた。さすが長女、二つ上の姉はいつもながら気が利いて段取りがいい。墓石の隙間や砂利の間に生えた雑草を取り除く。

こんなところにも、ヒメジョオンかハルジオンかがひょろひょろと風になびいていた。墓苑に備え付けられたバケツと柄杓を使って墓を清める。そのあと、タオルで丁寧に拭き上げる。

昨年の母の納骨の日、墓の下に納められていた父と兄と母の骨を並べて見比べた。納骨を取り仕切ったお坊さんがそうしてくれたのだ。

二十年の歳月を経た父の骨はほとんどが原型をとどめず茶色く変色し、包まれていた布もほぼ融けてしまって土塊(つちくれ)になろうとしていた。兄の骨は変色しているものの形をとどめていて、まだまだ土になろうとはしていなかった。父と兄の体のかけらを思い出しながら墓石を拭く手を動かした。