第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス
1.原子力発電と電気料金
1-1 公益事業会社の財産権の制約と独占料金
電力会社の経営の歴史的展開を概観してみよう。
①私有財産権の制約
米国においていわゆる公益事業会社の会社経営はどうなるのかが古くから議論されてきた。バーリーとドッドが企業の社会的責任について論争を行った(本書42-43頁参照)が、ドッドは、「会社経営者は誰に対して受託者であるか」という1932年の論文において、公益事業に関して次のように指摘していた(Merrick Dodd, For Whom Are Corporate Managers Trustees? 45 Harv L. Rev. 1145 1163〈1932年〉)。
すなわち、公益事業に用いられる私有財産は、限定的な意味においてのみ私有財産である。たとえば、鉄道事業は、適切なサービスを提供し、当局からの要求によりその便益を拡大させ、合理的な料金のみを請求し、そして一定の後援者に特権を付与することにより得られる利益の大きい新ビジネスが可能であってもすべての乗客を同一に扱うこととなる、と指摘していた。
つまり、公益事業会社は、私有財産権に制約を受けることとなり、株主利益の最大化の企業活動ができなくなる。