【前回の記事を読む】福島原子力発電所の事故は「人災」であると当時の政権は断定。これを契機として政府は大幅な電力の自由化を進めた

第1部 電力会社のコーポレート・ガバナンス

2.原子力事業者の絶対責任と国の援助

2‐1 原子力損害賠償法における国家の責任

②原子力事業者の無過失の無限責任についての議論

この原子力損害賠償法は、原子力事業者に無過失の無限責任(絶対責任)を規定するが、それについての問題点が、立法過程において法律学会においても議論されていた。

原子力事業者が、無過失責任を負い、かつ無限責任を負うこととして政府がこれに援助するというスキームは、天災の場合にも当てはまるのかなどが議論された。

すなわち、私法学会は、1960年に「原子力災害補償」について、東京大学法学部の教授・助教授による大がかりなシンポジウムを行っていた。まず、そこでの議論を紹介しよう。

鈴木竹雄先生の見解

私法学会「原子力災害補償」のシンポジウムの冒頭で、鈴木竹雄先生は、次のように述べられた。

すなわち、「この原子力の災害補償の問題は、その災害がもし起こりました場合には、第三者に非常に大きな損害を与えるというところから、民法の不法行為の一般原則によってこれを処理することができない、そこに民事責任についての特則を考えなければならないのじゃないかという問題が、第一に出て参ります。

そこで、そのような大きな災害補償というものを、企業の力でやっていこうというためには、原子力の責任保険が必要になってくるわけであります。

しかし、それでも処理できないというような大災害が起こりました場合その他については、国家の補償というものが、第3番目に現れてくるのであります。

この三つの問題がからみ合って解決をされなければ、原子力の事業を開発していくとともに、第三者の保護を十分に果たすことができない」、と(私法22号45頁〈1960年〉)。